今年もやってきましたミステリーの季節。2021年10月から2022年9月に発行されたミステリー新刊をランキングした「 このミステリーがすごい! 2023」が発表されました。国内編をまとめました。
話題のミステリーはどれか。まだ読んだことがない作品がありましたら参考にしてください。
1位「爆弾」呉勝浩
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。
- タイムリミットへの緊張感の中、感情を表に出さす自分を卑下しながらも心の奥底をついてくる容疑者スズキタゴサクと刑事たちの駆け引きに読む手が止まらない。
- 事件の真相やスズキの正体になかなか辿り着かせず、読むのを止められない。高度な心理戦や人の心の闇を抉り出すような描写など、感情も揺さぶられる一冊。
- 警察も大変だな…。こんなストーリーを考えつく作者って、すごい犯罪できそう…笑。最後の爆弾は…?楽しませてもらいました。
2位「名探偵のいけにえ」白井智之
病気も怪我も存在せず、失われた四肢さえ蘇る、奇蹟の楽園ジョーデンタウン。調査に赴いたまま戻らない助手を心配して教団の本拠地に乗り込んだ探偵・大塒は、次々と不審な死に遭遇する。奇蹟 VS 探偵!ロジックは、カルトの信仰に勝つことができるのか?
- タイトル回収もよく出来ていて、最後まで驚きの連続だった。いけにえとは何のことだろうとは思っていたが、まさかサブタイトルまで伏線だったとは。
- 評判通り、めちゃくちゃ面白かったです!どれも納得感のあるロジカルな多重推理、これでもかという伏線の数々、二転三転そのまた先の真実、そして見事なタイトル回収、どれもが圧巻としか言いようがない大傑作。
- 面白かった。誰が、どのように、よりも「なぜ」が染みた。心に残りそうな作品。りり子さん、好きです。
3位「捜査線上の夕映え」有栖川有栖
大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。金銭の貸し借りや異性関係のトラブルで、容疑者が浮上するも……。「俺が名探偵の役目を果たせるかどうか、今回は怪しい」
火村を追い詰めた、不気味なジョーカーの存在とは――。
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- こういう球を投げて来るとは思ってなかった。旅情を掻き立てられ、上品な文章に身を委ねる、心地良い時間が過ごせました。
- いいなあ鈍行で南紀一周! 電波不通のロッジに篭って名著一気読み! トリックはわりと脱力系だけど、物語的な肉付けのお陰でなかなか印象的。
- もう30年に亘るシリーズの最新作。時代は移れど謎解きの楽しみと、何よりもシリーズの「空気感」を変わらなく味わえました。
4位「方舟」夕木春央
山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれ水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。そんな矢先に殺人が起こった。タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。
- いや~、久しぶりに帯の大絶賛通り、大当たりの作品でした。たまには帯を信じていいんだ。ラスト数ページまでは正直まあまあというレベルだったんですが、ラスト数ページで世界反転。
- 大ドンデン返し!えー!考えもしなかった結末。 最初は読み難く、進みが遅かったけれど中盤からはどうなる?誰が犯人?と考えながら読み耽る。
- あぁあーーーっ!!!読後、絶句&目の前が真っ暗になった。(新幹線内で読み終えてしまい、ショックを抑えるのに必死
5位「プリンシパル」長浦京
1945年。暴力組織の一人娘は父の死により、後継者の兄たちが戦地から帰還するまで「代行」役となることを余儀なくされる。幾多の謀略を経て、次第に権力と暴力の魔力に魅せられていく綾女。そして、鮮血に彩られた闘争の遍歴は、やがて、戦後日本の闇をも呑み込む。
- なかなかの殺戮もので過去のヤクザ抗争もびっくりの展開。戦後のアンダーグラウンド史を下敷きに、事実とフィクションをうまく重ねた作品。
- 血で血を洗う所業のオンパレード。これぞ長浦作品!戦後間もないヤクザが蔓延っていた時代。侠気に生きる物語は正に高倉健、鶴田浩二を思い出させる。
- 惰性で読むが、挫折寸前だった。一転、100pあたりからは俄然物語世界に没入して、あとはほぼ一気呵成。小説構成の荒っぽさもかえって魅力になっていて、長編らしい読み味
6位「爆発物処理班の遭遇したスピン」佐藤究
爆発物処理班の遭遇したスピン…鹿児島県の小学校に、爆破予告が入る。急行した爆発物処理班の駒沢と宇原が目にしたのは黒い箱。事件のカギとなるのは量子力学!?第165回直木賞作家 異次元レベルの最新短編集
- 全編から例外なく立ち上る芳醇な暴力のにおいに読後の酩酊感が半端ないです。直木賞選考で的外れな選評してた林真理子をバカにしてたけど、これは確かに読む人選ぶなあ。
- 短編集と知らずに読んだ。のめり込むとは、こういうことか。人の心情や情景がスルスル入り込んでくる。佐藤究作品を初めて読んだが面白かった。
- この人、警察・ヤクザ・狂気が抜群にうまい。なぜこんなにリアリティを感じるのか不思議。一番好きなのは「猿人マグラ」。ぶっちぎりで好き。次点が「九三式」。
7位「同志少女よ、敵を撃て」逢坂冬馬
独ソ戦が激化する1942年。ドイツ軍によって、母親を殺された主人公は復讐するために一流の狙撃兵になることを決意する。独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かいおびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵”とは?
- 最後は救われて安堵。戦争が人を変えてしまうのは度々聞く話だが、それにしても女性たちを傷つけ苦しめる男性にはほとほと嫌気が差す。
- セラフィマが戦争から学びとった命の意味。「失った命は元に戻ることはなく、代わりになる命もまた存在しない。」
- ミステリとして読まなくても十二分に面白く、戦争小説としても、セラフィマの成長物語ヒューマンドラマとしても完成度が高い物語になっていた。
8位「大鞠家殺人事件」芦辺拓
戦下の昭和18年、富を築いた大鞠家の長男に嫁ぐことになった陸軍軍人の娘。だが夫は軍医として出征することになり、一癖も二癖もある大鞠家の人々のなかに彼女は単身残される。ある晩“流血の大惨事”が発生する。危機的状況の中、誰が、なぜ、どうやってこのような奇怪な殺人を?
- 戦時に起きた不可解な殺人事件。当時の生活の様子が克明に現されており、歴史的なことも知ることができます。ユーモアもある、面白い作品です。
- 殺し方は大袈裟すぎたけど恨む理由やら過程がしっかりしてて面白かった。戦争ってホンマなぁぁんも無くなるんやな。
- フィクションとはいえ、動機があり得ないものより、今作のように納得できる作品の方が好み。あらすじの正統派本格推理に納得。
9位「地図と拳」小川哲
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。
- 満州の架空の町が人々の思いや夢、欲望、利権などを飲み込み世界大戦という嵐に巻き込まれ翻弄されていく様子が様々な人々の視点から丁寧に描いており本当にあった歴史なのではないかと錯覚してしまうほどの凄味がありました。
- 圧倒的に面白い。紙で633ページ。ル・コルビュジェ、加藤陽子、安彦良和、トマス・ピンチョン・・・雑多で膨大な参考文献も頷けるだけの情報量が詰まっている。
- 日本が歩んだ勝利と敗北の道程。そこに一摘まみのIF要素と、建築・地図といった象徴的なピースを噛み合わせ、静謐だが雄弁な歴史小説が誕生した。
9位「リバー」奥田英朗
同一犯か? 模倣犯か?
群馬県桐生市と栃木県足利市を流れる渡良瀬川の河川敷で相次いで女性の死体が発見!
十年前の未解決連続殺人事件と酷似した手口が、街を凍らせていく。
- 長編でありながら解決には至らず、動機もモヤモヤのままだが、大作だからこそのリアルさと得体の知れない不気味さを思いっ切り味わって読了。
- 600ページを超える分厚い本だけど、飽きさせない。容疑者3人とも怪しすぎ。
- 誰が真犯人かという読みはことごとく覆され、「おいおい、そんなんありかい」と絶句した。
11位「此の世の果ての殺人」荒木あかね
小惑星「テロス」が日本に衝突することが発表され、世界は大混乱に陥った。そんなパニックをよそに、小春は淡々とひとり太宰府で自動車の教習を受け続けている。小さな夢を叶えるために。年末、ある教習車のトランクを開けると、滅多刺しにされた女性の死体を発見する。教官で元刑事のイサガワとともに、地球最後の謎解きを始める――。
- あと2ヶ月で小惑星が衝突、と何処かで見たような設定なのに、既視感は少ない。一見ハチャメチャだけど、それぞれ筋が通っていてうなずける。
- 週末世界と言う設定が斬新、但し、それほど暗い気持ちにならずに読めた。登場人物がそれぞれ魅力的で、人間模様としても充分楽しめた。期待以上の良作だった。
- 謎を追う道中で出会う地球最後の時を過ごす人々の姿に色々な感情を刺激されて面白かった!主人公のハルに完全に感情移入してしまい最後は涙しながら読み進めました。
12位「ダミー・プロット」山沢晴雄
友人・小島逸夫の愛人が何者かに殺害された。結婚を控えた彼の頼みを聞きいれて、商社マンの風山秀樹はアリバイの偽証工作を引き受ける。そして同じ夜、会社員の柴田初子は、著名なデザイナーの岸浜涼子の提案によって、彼女の替え玉を務めるという奇妙な契約を交わしていた。錯綜する人間関係から浮かび上がる驚愕の真相。
- 探偵砧順之介シリーズの長編。相変わらず将棋ネタが多い。女流棋士が教室を開き……という冒頭から将棋好きの女性が多く登場するのが楽しい。
- 本格ミステリとしてはフェアすぎて単純な驚きは少ないのだが、それゆえ作者が徹底していたこだわりには圧倒される。
- 山沢氏は終始アマチュアで執筆された同人作家で、本作は商業本復刻第二弾。序盤で替え玉トリックの使用を開示した上で読者をまんまと欺きます。
13位「#真相をお話しします」結城真一郎
「でも、何かがおかしい」5つのお話。かすかな違和感。そして狂気。「何となくラストが見えるなー」なんて思いながら読んでいくと・・・。私たちの日常に潜む小さな”歪み”、あなたは見抜くことができるか。
- 今の時代を描いた短編集でテンポもよく文書も読みやすいのでどんでん返し物を手軽に読みたいって人におすすめ。
- ストーリーはとにかくひねってあるので、いい意味で裏切られておもしろかったです。一読の価値あります。
- 短編5編で繋がりは無くてちょっと怖い、人間的な意味で。パパ活やUber、YouTubeなど、現代のツールを駆使した時代にあったミステリーだった。
14位「ループ・オブ・ザ・コード」萩堂顕
疫病禍を経験した未来。WEO(世界生存機関)に所属するアルフォンソは、20年前に歴史の一切が〈抹消〉された、かつての独裁国家〈イグノラビムス〉へと派遣される。いまや多数の欧米企業が参入し、「再生のテーマパーク」とも揶揄される彼の国で、児童200名以上が原因不明の発作に見舞われる奇病を発症、その現地調査を命じられたのだった。国家機関単位の任務を、たった数人で遂行することになったアルフォンソたちが辿り着く、衝撃の真実とは、一体。
- 生物兵器による大量虐殺を起こした国の「全てを抹消」して新しい国を作った近未来を舞台に子供が蹲る謎の病症解決に挑むSF小説。 めっちゃ傑作SFで全SF好きに読んで欲しい。
- 骨太のストーリー展開を面白く読んだが、当事者としての子供の問題が置き去りにされたまま大人のための予定調和な感じで終わってしまったのが残念だった。
- 国家や民族とは何かを問いかける壮大なストーリーと親と子の関係性や人はなぜ生まれるのかといった社会の基本単位まで話が有機的に緻密に絡み合い相互に関係していて破綻がないのが素晴らしい。
15位「録音された誘拐」阿津辰海
大野探偵事務所の所長・大野糺が誘拐された⁉ 耳が良いのがとりえの助手・山口美々香は様々な手掛かりから、微妙な違和感を聞き逃さず真実に迫るが、その裏には15年前のある事件の影があった。誘拐犯VS.探偵たちの息詰まる攻防。本当に騙されていたのは誰だ?
- 犯人との攻防戦は二転三転して、面白くて飽きない展開だった。これはほぼシリーズ化するだろうから続編お願いします。
- 小さな伏線を撒いては回収に次ぐ回収。徐々にボルテージを上げていったところでのラストの…。飽きさせない展開が極上のエンタメテイスト。いやぁ、老獪にして達者。
- 次から次へ明らかにされる真相。思いもよらぬところが伏線になっていたりして、さすがの構成力。著者は今一番のっているミステリ作家ではないか。
16位「馬鹿みたいな話!」辻真先
生放送中のテレビスタジオで主演女優が殺害された! 自らが手掛けたミュージカル仕立てのドラマ撮影現場での殺人に、駆け出しミステリ作家・風早勝利と、名バイプレイヤー・那珂一平が挑む!
- 創成期のテレビ業界を舞台にする昭和推理シリーズの第三作。登場人物は歳を重ね、時代の奔流に身を任せ業界を漂っている。彼らはこれからどこへ行くのか?
- ミステリとしてははっきり言って小粒ですが、当事者にしか語れないテレビ黎明期のエピソードがどれも興味深く、そちらがメインとも言える作品です。
- ミステリ的なところよりも、昭和のテレビ業界小説的な感じで楽しく読めた。それにしても、一兵さんいつも可哀想だな。
16位「煉獄の時」笠井潔
手紙をネタに誘い出されたシスモンディとナディアは、セーヌ川に係留中の船で全裸の女性の首なし屍体を発見する。事件の調査のためリヴィエール教授を訪ねると、彼は若き日の友人、イヴォン・デュ・ラブナンのことを語り始める。39年前、イヴォンも首なし屍体事件に遭遇したというのだ――。
- 矢吹駆シリーズはほとんど思想書として読んでるが、本書が大変面白かったのはシリーズ読み始めた頃に比べて少しは知識が増えたためと思えば、全作読み返したい気も湧いてくる。
- 哲学&歴史&本格を埋め込んだ重厚なストーリーは、読み応え十分。
- スペイン内戦から第二次世界大戦に至る政治情勢、レジスタンス活動、哲学談義が、事件そっちのけで語られひたすら退屈。
18位「救国ゲーム」結城真一郎
“奇跡”の限界集落で発見された惨殺体。その背後には、狂気のテロリストによる壮絶な陰謀が隠されていた。否応なく迫られる命の選別、そして国民の分断――。最悪の結末を阻止すべく、集落の住人・陽菜子は“死神”の異名を持つエリート官僚・雨宮とともに、日本の存亡を賭けた不可能犯罪の謎に挑む。
- 高齢化と人口流出による地方崩壊という大きな社会問題に絡む殺人の謎解きかと思わせて、実は凝りすぎるほど凝った特殊設定ミステリに持っていくとは。
- 中盤からはストーリー展開への興味というよりは、登場人物が抱く「沈みゆく国」への一つの問題提起に関心が移りました。
- 途中から犯行の可能性など推理の描写がとても長く感じて少し苦痛になってしまった。作品の賢さに、自分が付いていけなかった。
19位「俺ではない炎上」朝倉秋成
ある日突然、「女子大生殺害犯」とされた男。既に実名・写真付きでネットに素性が曝され、大炎上しているらしい。まったくの事実無根だが、誰一人として信じてくれない。会社も、友人も、家族でさえも。ほんの数時間にして日本中の人間が敵になってしまった。必死の逃亡を続けながら、男は事件の真相を探る。
- 途中から先が気になって目まぐるしく変わる状況に読む手を止められず寝不足…。続きが気になって早く読書する時間を作りたいと思ってようやく読める時は至福でした。
- 身近な恐怖を感じさせるリアリティがあり「六人の嘘つきな大学生」より好みの作品だった。
- 前作に引き続き、この本も気持ち良く騙されました。スピード感あふれそういうところも現代的かなと思います。でも怖いネットの情報量。
20位「N」道尾秀介
全六章。読む順番で、世界が変わる。あなた自身がつくる720通りの物語。すべての始まりは何だったのか。結末はいったいどこにあるのか。
- 短編のどこから読んでも良く、順番によって読後感が様々になるのを狙った装丁が斬新でワクワクしながら読んだんだけど、やっぱ内容は道尾氏だけにずっしり重い。
- もし何年も後、すっかり忘れてしまってその時もう一度読んだら、どんな順番になるのかな。装丁含め新しい本の読み方で、おもしろかったです。
- 時間のある時に一気に最初から再読したい。 いちいち章の始まりのページを探すのは少し面倒だった。 「消えない硝子の星」が好き。
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こんにちは、フルタニです。放送局で番組作りをしてました。 このミステリーがすごい! を書きます。