
半世紀以上生きてきて最近思うのは、人権や多様性という言葉に世の中が鋭敏になったと思うことです。声が大きい一握りの人が力を持った時代にはなかった緊張感を感じます。軋みを上げながら古い価値観が変わっていく先に何が待ち受けているのでしょうか。
議論もさることながら、目を開けて確かめたいのは現場です。エッセイストの酒井順子さんの読書日記には見過ごしてはならない現場の記録がつづられています。
Contents
ノマド 漂流する高齢労働者たち
2000年代、アメリカに新しい貧困層が現れた。一見すると、キャンピングカーで暮らす気楽な高齢者。有名企業で働いた経歴や建築技術の資格をもつ人もいて、考え方や見た目も中流階級のそれと変わらない。しかし、彼らはガソリンとPC・携帯を命綱に、その場限りの仕事を求めて大移動する、21世紀の「ノマド」である。
土葬の村
筆者は「土葬・野辺送り」の聞き取り調査を三十年にわたって続け、平成、令和になっても、ある地域に集中して残っていることを突き止めた。
それは大和朝廷のあった奈良盆地の東側、茶畑が美しい山間にある。
剣豪、柳生十兵衛ゆかりの柳生の里を含む、複数の集落にまたがるエリアだ。日本人の精神生活を豊かにしてきた千年の弔い文化を、まだ奇跡的に残る土葬の村の「古老の証言」を手がかりに、詳らかにする。
大変な手間の掛かる土葬を今も続けておられるご住職の「ムダをいっぱいして故人を送ることが供養になる」という言葉は納得です。
私も小さな集落出身だから父に土葬見たことある?って聞いたら「土葬はないけど隣の集落では野焼きだった」って斜め上いく衝撃。そういえば私の生まれ育った集落のはずれの方にも焼場といわれてた小さな小屋の火葬場があったんだよね…もう使われていなかったけど、通るとき怖かった記憶ある。
人が亡くなって葬儀が終われば火葬場へ。日本の火葬率は99.9パーセントといわれます。そんな中残りの0.1パーセントに含まれる弔い方法が土葬です。葬祭史に詳しい著者による日本における土葬文化の最後の記録。
「かつての土葬では、座棺が主流であり、遺体を座らせることが非常に大変であったこと。座棺は納棺に手間がかかるため、戦後は土葬でも寝棺が好まれるようになったこと」
かつての日本人が痛いをどのように扱っていたかが忘れ去られてしまった時代に本書は貴重な記録の所になっている。
【新刊】このミステリーがすごい !2022選考対象作品リスト《国内編》 | 気持ちのスイッチ
