
人生を変えるほどのすごい本に巡り合うためには、とりあえず本を読めということをよく聞きます。ではどうするか。本そのものを探すのではなく、本屋を探すことにコツがあるのだと書店員から聞きました。
出版流通の構造上、どの本屋も同じような品揃えになりがちです。しかし、中には一つ一つの本を見極め、選書に力を入れる書店は少なからず存在します。
どこにそんな本屋があるか。本好きの書店員に聞くと、リスペクトする書店を教えてくれるはずです。
Contents
街を変える小さな店 京都のはしっこ、個人店に学ぶこれからの商いのかたち。

今の時代に、個人の小さな店が生き残るために必要なことは何か。京都の人気書店「恵文社一乗寺店」の店主が、京都の街で愛されるさまざまな個店を訪ねて、小さなお店の魅力と街との関わりについて考えます。
書店員の中にはかなりの確率で、書店の事情に詳しい人が存在します。商売敵の事情に詳しくなければ生き残れないという業界ではないので、ほとんどが書店員の趣味になります。
何人かの書店員がその名を口にしたのが京都にある「恵文社一乗寺店」という書店です。

チェーン店のような名前なので、よくある量販書店かと思ったのですが、調べてみるとかなりクセのある書店のようです。
京都は遠いので行くことはできませんが、こんな書店もあるのだと考えながら本を読むと、本の機会が広がってくるような感じがします。
くろうとの美意識を持って金を使える人たち

本書は二部構成。前半は著者の歩んだ書店員人生が語られます。中でも興味深いのが棚づくりの仕事。書店の棚にどの本を並べるかという基本的な姿勢がリアルに伝わります。
地域の書店は地域に支えられて生きていることがわかるのが、大きくスペースを割いて語られる第二章です。
特に左京区のように大学が集中するエリアでは、客の多くが学生だから、「カネを持たない客が多い」と言い換えても差し支えないだろう。学生たちは今も昔も貧乏で、貧乏人相手の商売人も、やはり貧乏なのだ。15年も学生街にある本屋で働いている自分自身、身にしみて理解している。そんな街のあり方は学生たちの価値観に大きく左右される。
店舗の周辺に点在する店がルポルタージュ風に紹介され、読み進むうちにこの書店がなぜ全国的に知られるようになったのかが伝わってきます。
「寺と舞妓は京都の二大象徴である。寺のまえに舞妓をたたせると京都の絵になる。どちらもなにも生産しない」
民俗学者の梅棹忠夫は「梅棹忠夫の京都案内」で述べたように、京都は生産性の低い都市なのだ。
書店の本として読んでもいいし、路上探検のガイド本として参考にしてもいいかもしれません。読み終わって残るのは、本というものは著者という人がいること。書店には本を愛する種店員がいるということです。すごい本とは人の存在に触れる本のことなのではないかと感じました。
- 全国の書店員が注目する京都の書店の内側
- 書店を育むのは地域の歴史や環境、風土
- 本を売るためには町を歩くというシンプルな提案
著者はどんな人
堀部篤史
昭和52年京都市生まれ。立命館大学文学部卒業。学生時代より、編集執筆、イベント運営に携わりながら恵文社一乗寺店スタッフとして勤務。2004年に店長就任。商品構成からイベント企画、店舗運営までを手がける。
まとめ
コロナを境目にリモートとグローバルの動きが同時に進んでいます。
リモートワークにより世界が小さくなることからグローバリゼーションが進みます。誰がどこにいても経済は回るのです。
しかし、その反面現実の世界は地域主義の傾向を強めています。国と国の間では保護主義が、都市と地方との間ではローカリゼーションが進み格差が広がるのです。
問題はローカルの経済圏の生産性が低いこと。その問題意識に立てば、本書が提案する「店単体ではなく、街全体を巻き込んだ個人店のあり方」は考えさせられます。