
番組企画のテーマの一つに「検証」というキーワードがあります。事件や事故がなぜ起きたのか、その理由を証言や証拠を元に組み立てる番組です。
ビジネスの世界で事故にあたるのが企業の倒産。巨大な企業がコケると暮らしにまで影響が及びます。
普段なら厚い企業秘密に隠された史上の不始末を、膨大な公開データを分析することであぶり出した教訓の本を興味深く読みました。
Contents
世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由

私たちは、事件や事故のニュースを聞いただけでわかった気になりがちです。
いわゆる「思い込み」です。
しかし、思い込みだけでは、事件や事故の再発を防止することはできません。思い込みを思い込んだまま放置せず、分析することで再発防止をすることに意味があるのです。
きちんと証言や証拠にあたり、掘り下げて行かないことには真の原因を見つけ出すことはできないのです。
リーマン・ブラザーズ、エンロン、コダック、トイザラス、MGローバー、山一證券、そごう、タカタ……
本書は、世界を揺るがした大きな企業倒産の背景を検証したリポートです。公開された情報をつぶさに調べ上げ、パズルをはめるように組み立てた内容なので説得力があります。
取り上げられた倒産劇の主役となったのは、エリート社員が勤める超一流の企業ばかりです。倒産の引き金となったのは時代や環境、経営方針など複雑な背景がありますが、倒産劇に共通して見えてくるのは、人間の弱さです。
「負けに不思議の負けなし」と言われるように、倒産した会社には、いくつかのパターンに分けれる「負けた理由」があり、その理由のほとんどはかなり早期かつ好調な時期に芽生えている。「倒産の理由」の分類とは読まずに、「好調な中に起こしやすいミス」の図鑑と考えれば、ほとんどの企業のとって参考にすべき内容です。
様々な時代の多岐にわたる事業分野での著名な会社の倒産例を25社取り上げ、各社10ページ程度のサマリにして触れています。わかりやすい文章だけでなく、著者手書きのイラストがふんだんに盛り込まれており、企業といえども有機的な生き物のように扱っている感覚と、読む人への親切心が伝わる作品です。
不正のトライアングとは
誰もが知っている有名企業でも不正は起きます。不正を根絶するために不正を見張る人がいても不正は起きます。「コンプライアンス遵守」と号令をかけても根絶しません。
不正をやろうと思えばできてしまう「機会」が存在すること。不正をすれば現状の問題解決に繋がるという「動機」があること。不正を悪いことだと考えない「正当化」すべき理由が存在すること。以上の三つが揃った時不正が起きる。アメリカの犯罪学者DRクレッシー #世界倒産図鑑
大きな企業であればあるほど、その責任を担うのはエリートです。しかし、ひとたび不正が起きると厳しい生存競争を勝ち抜いてきたエリートでさえ、完璧な力を持っていなかったことを教えてくれます。
著者はどんな人
荒木 博行氏(あらき ひろゆき)
慶応義塾大学法学部卒業。IMD BOTコース修了。住友商事株式会社を経て、2003年よりグロービスに参画。法人向けコンサルティング業務を経て、グロービス経営大学院にてオンラインMBAの立ち上げや特設キャンパスのマネジメントに携わる。
現在は株式会社フライヤーのCOOを務めるとともに、株式会社学びデザインを設立し、代表取締役を務める。
- 出版日:2019/12/5
- ページ数
- 目次
まとめ
本書で紹介された企業の倒産劇。発生時は新聞やテレビなどで大々的に報じられたはずなのに、改めて読み直すと「なぜこんなことが起きたのか」思い出せないことが多いことに気づきました。
ニュースは連日報道され、情報は公開されつつけていたのにもかかわらず、本質的な流れや背景を見逃してしまったことは、「木を見て森を見ず」ということわざを想起させられます。
日々伝えられるニュースに流され、本質的なことを見逃してはいけないことを、この本を読むと改めて感じます。
- 会社誕生の歴史から転落までのドラマが数ページで読める
- 難解な用語や表現がないのでわかりやすい
- 著者によるイラストやグラフが多用されているので疲れない
- 明日はわが身の教訓がまなべる