奈良少年刑務所 絵本と詩の教室「あふれでたのは やさしさだった」の読後感

あふれでたのは やさしさだった
フルタニ
こんにちは、フルタニです。放送局で番組作りをしてました。

番組づくりの基本は「拾う、貰う、盗む」です。創作するのではなく埋もれていた事実を掘り起こして伝えることが大切です。

Contents

地方局が作るドキュメンタリー

特にドキュメンタリー系の企画は地方から習作が生れます。人口比から言うと圧倒的に都会の方が大きく、放送局の規模も問題にならないくらい東京が独り勝ちしています。

ところが、記憶に残るドキュメンタリーは地方発の方が多いのです。そのネタ元をたどると地域の新聞に掲載された記事が始まりだったりします。

よく聞いたのが、地域では大事件や大事故が発生する確率は都会に比べて高くなく、取材者は足を使って話題を発掘するほかないからだという説です。

もちろん説ですので確かめようはありませんが、丁寧に取材を進めるうちに当事者と信頼関係が生れ、そこから深い話や隠れたエピソードにたどり着くことはよくあると聞きました。

今日発見したのは深く掘ってたどり着いた水脈に似た本です。

くも

空が青いから白をえらんだのです
 
Aくんは、普段はあまりものを言わない子でした。そんなAくんが、この詩を朗読したとたん、堰を切ったように語りだしたのです。
「今年でおかあさんの七回忌です。お母さんは病院で
『つらいことがあったら、空を見て。そこにわたしがいるから』
とぼくにいってくれました。それが、最期の言葉でした。
おとうさんは、体の弱いおかあさんをいつも殴っていた。
ぼく、小さかったから、何もできなくて……」
Aくんがそう言うと、教室の仲間たちが手を挙げ、次々に語りだしました。
「この詩を書いたことが、Aくんの親孝行やと思いました」
「Aくんのおかあさんは、まっ白でふわふわなんやと思いました。
「ぼくは、おかあさんを知りません。でも、この詩を読んで、空を見たら、ぼくもおかあさんに会えるような気がしました」
と言った子は、そのままおいおい泣きだしました。

あふれでたのは やさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室

あふれでたのは やさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室

尞 美千子(西日本出版社)

奈良少年刑務所で行われていた、作家・寮美千子の「物語の教室」。 絵本を読み、演じる。詩を作り、声を掛け合う。それだけのことで、凶悪な犯罪を犯し、世間とコミュニケーションを取れなかった少年たちが、身を守るためにつけていた「心の鎧」を脱ぎ始める。「空が青いから白をえらんだのです」が生まれた場所で起こった数々の奇跡を描いた、渾身のノンフィクション。

やんちゃな子供たちを見ると、粗暴で性格もねじれていると思い込みがちです。実際に取材してみるとわかりますが、はじめて話しかけるても帰ってくる答えには敵意がこもり十中八九ダメな奴という印象を受けると思います。

しかし、深く付き合ううちに、粗悪粗暴に見えた表情の後ろに不安を抱えた臆病な姿が見えてくることがあります。世間とコミュニケーションを取れなかった少年たちが、身を守るためにつけていた「心の鎧」とは不安の表れです。

心の鎧を吐き出す瞬間に立ち会うことができたとき、取材者も世間の役に立てたことを実感することができます。

1回目は絵本を朗読して、みんなで演じる。
2回目も絵本を読み、3回目は詩を声を出して読み、感想を聞く
そして、受講者に詩を書いてもらい、その詩を本人が朗読し、みんなで感想を述べる。

「自分が発表しているときは、残り全員が、自分に耳を傾けてくれる。朗読を終えたときも、みんなが拍手をくれる。十数名からの拍手を得られるということの大きさ、誇らしさ。もしかしたらそれは、彼らにとって、生まれて初めての体験かもしれない」

寮美千子さんの言葉が心にしみます。

エコノミスト

2019.03.12号が紹介した話題の本

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