
「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」
「推し」とは何か。瞬時にわかるかどうかで、その人の年齢がわかるらしい。
年齢だけでなく、その人を取り巻く世界や、意識、感覚なども判別できるリトマス試験紙のような言葉かもしれません。
作家の宇佐見りんさんは、主人公の高校生・あかりの一人称語りによって、アイドルを推すことのリアルを精緻に描き、芥川賞を受賞しました。
書店で本の売れ行きを見ていると、単行本が売れる直木賞とちがって、芥川賞は単行本化がこれからというものが多く、店先に本が並ばないことがあります。
ところが、「推し、燃ゆ」は売れました。初版本の発売以来、書店の店頭で平積みされた「推し」が並び続けています。
「推し」は、ファンが応援している人を指し示すときによく使う言葉です。ジャニーズ、宝塚、地下アイドルに地上アイドル、今で言えばYouTuberもそうですね。
「推し」という言葉も、その感覚も、私と同じ年代の子たちには通用することが多いのですが、世間的にはまだその実態が理解されていないように感じたのが、書いたきっかけのひとつです。
宇佐見りんさんは、生活の一部に深く食い込んでいる人が多いのに、あまり注目されていない「推し」という言葉に注目しました。
執筆のために、ファンのSNSやブログを見るうちに、その世界にしか通じない用語や独特の文化に驚かされたといいます。
今の時代に生きづらさを感じる世代の思いに寄り添ったからこそ、売れ続ける芥川賞受賞本なのかもしれません。
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