
アートとは。ゼロから価値を生み出す創造的活動です。
現代アートと聞くと、難解なイメージを受けたり、中には炎上して大きな社会問題になったりして、何がいいのかわからないという人も多いのではないでしょうか。
一流企業の経営者の中には現代アートを積極的に取り入れ革新的な商品やサービスを生み出す例は枚挙にいとまがありません。
アートとビジネスの関係はこれまでビジネスの側から語られてきました。この本では、アートの側からビジネスとの関係を解き明かしています。
Contents
アート思考
世界の優れた経営トップの中には、アートにも深い造形を持つ人が数多くいるといいます。人間の感性や感情、価値観がビジネスになる時代だからかもしれません。
ビジネスの世界で求められる能力はこれまで「ロジカルシンキング(論理的思考)」とか「クリティカルシンキング(批判的思考)」でした。正解を誰より早く見つけ出す力ですね。
しかし、社会が進化しテクノロジーが発達しても解決できない難題が増えつづけています。何が原因で何が課題かということすら見えづらくなっているので、当たると思った商品やサービスが確実にヒットする保証はありません。正解そのものが見つけにくくなっているのです。
ではどうしたらいいか。
そんな時代に注目されるのが、従来の思考法とは異なる思考法だと語ります。
芸術体験は一種の「常識からの逸脱行為」だからです。アートはどこか常識を破ったところにあるものであり、その時代の合理性や論理だけでは測ることができないものです。我々は知らず知らずのうちに、常識に囚われていますが、アーティストはそれらを軽々と乗り越えていきます。
今日のアートは、旧来のような人間の内面世界を表現するだけのものでなく、テクノロジーやデザインと結びつき、社会的な課題に新たな提案を行う、あるいは、現代思想と結びつき次の時代の社会のあり方を構想するといった思考実験の場でもあるのです。
「アーティストとは、答えを示すのではなく、問いを発する人」である。ビジネスにおけるイノベーションもまた、「常識からの逸脱行為」によって生まれてくる。観る側の視点を変えてみると、現代アートがもつ難解なイメージがわかりやすいものに変わり、ワクワクした気分になるのではないでしようか。
【評価】ビジネスパーソンが今なぜ、現代アートを知るべきかがわかる本
- 人が見えていない世界を先取りする
- デザイナーが生み出すのが『解決策』であるのに対し、アーティストが生み出すのは『問いかけ』である
- 自らの心に存在する凝り固まった価値観のリミッターを外す
- 人間の欲望には限界がない
まとめ
アートと接して得られる効果は、見た人の中に澱のように溜まっていき、思考や人格に深く影響を与えるものです。
私たちは戦後、高度成長を支えた日本の雇用システムの中で育ってきました。ガラパゴス的な雇用システムの中では独自の意見を述べると疎まれます。しかし今は違います。
現代アートは、常識から離れすぎているため私たちが持っている認識では測りきれないものです。それが一般の人にアートとは難しいものだという印象を植え付けています。しかし、答えを自ら作り出していくことという視点がわかると見え方は変わってきます。
答えのないものを探すということは、自分探しそのものです。自分とは一体何者なのかという疑問は万人が共通に持つものです。
現代アートをみる中で、もし何か心に感じるものがあったとすれば、それは自分の中にアーチストが抱えている感度を共有できたことを意味します。
デザインは解決策つまり解答であるのに対し、アートは問いかけである。アートを鑑賞することからは、自分の信じる道を歩き続けることの大切さを改めて感じることができます。
秋元 雄史(あきもと ゆうじ)
東京藝術大学大学美術館 館長・教授 1955年東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒業後、作家として制作を続けながらアートライターとして活動。新聞の求人広告を偶然目にしたことがきっかけで1991年に福武書店(現・ベネッセコーポレーション)に入社。「ベネッセアートサイト直島」として知られるアートプロジェクトの主担当となり、開館時の2004年より地中美術館館長/公益財団法人直島福武美術館 財団常務理事に就任、ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクターも兼務する。2006年に財団を退職して直島を去るが、翌2007年、金沢21世紀美術館 館長に就任。10年間務めたのち退職し、現在は東京藝術大学大学美術館 館長・教授、および練馬区立美術館 館長を務める。著書に『おどろきの金沢』(講談社)、『日本列島「現代アート」を旅する』(小学館)、『工芸未来派 アート化する新しい工芸』(六耀社)などがある。