
日本にいると階級の存在や階級よる不利益を感じることはあまりありません。しかし、いったん海外に出ると日本のような社会はレアケースです。人の尊厳がいともたやすく踏みにじられる世界が当たり前のように広がっています。
階級社会の象徴ともいえるイギリスで生活しながら鋭い視点でエッセイを綴り続けているブレイディみかこの新刊エッセイをご紹介します。
ワイルドサイドをほっつき歩け –ハマータウンのおっさんたち

EU離脱の是非を問う投票で離脱票を入れたばっかりに、残留派の妻と息子に叱られ、喧嘩が絶えないので仲直りしようと漢字で「平和」とタトゥーを入れたつもりが、「中和」と彫られていたおっさんの話……イギリスの市井の人の魅力を引き立てるブレイディさんの愛と観察眼と筆力。厄介で愛おしい人生。
- メインになるのは著者の夫とその仲間たち・ロンドン近郊の労働者階級
- 労働者階級のクソガキどもも人生の後半戦!彼らの言い分を聞こう
- 現代版肝っ玉かあさん・ブレイディみかこ節がさく裂
男たちのほとんどが天下国家を論じるときに大上段に振りかぶるのに比べ、自分の住む場所から手の届く範囲のことを題材に語るのが女性たち。
子どものこと、生活費のこと、治安のこと、愛情のこと・・・テーマはすべて普遍的。これといった打開策がある問題ではありませんが、語る内容や視点には他社を納得させるリアリティがあります。
ブレイディさんが題材にするのは、日本では想像もできないほどシビアな生活が広がるイギリス。それも労働者階級の社会です。今の人には想像ができないかもしれませんが、オリンピックで高度成長になるまでの日本を想像します。
片側から見るとヤバい人や暮らしも、その中に入って眺めるとまた違った世界が見えてきます。
ブレイディみかこはどんな人
ライター・コラムニスト。一九六五年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、一九九六年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。二〇一七年、『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)で第十六回新潮ドキュメント賞受賞。
- 出版日:2020/6/2
- ページ数:256ページ
書評まとめ
ブレイディさんのリポートは、ぎりぎりまで攻めながら攻め切らず、反撃の余地を残しているやさしさと安心感を感じます。