
本屋のお手伝いで数年前から広告づくりをまかされています。結構奥深い世界が広がっています。
Appleのジョブスが広告に「あれもこれも詰め込みたい」と話した時に、
世界的に有名クリエイティブディレクターのリークロウがジョブスに向かって5枚のトレーシングペーパーを丸めて一度に投げた。
1つしか受け取れなかったジョブスにこう言った「広告とはそういうものだ」。
困った注文
社内向け周知物を編集していると、たまに欲張りな注文を受けることがあります。
それは「ついでにこれも」情報です。
本筋とは違うサービスや告知を”ついでに”載せたいという要望です。
「カタログの掲載商品に加えてクレジットカードの紹介もして欲しい」「イベント告知の余白に経営者のメッセージを入れて欲しい」「本筋商品以外の商品もできるだけ掲載したい」・・・
ものを伝えることの基本は「メッセージ」を的確に伝えること。
そのためには伝えたい事柄を絞り込んだ方が正解なのですが、”情報は多い方が喜ばれる”と勘違いする人も少なくありません。
欲張りな注文のほとんどがそれ。
メインテーマを見た読者がおまけを喜ぶと思うのでしょうか。
わざと作った余白がもったいないと思うのでしょうか。
中にはおまけ注文を”目立たせたい”という人もいます。
テストプリントを見て出てくる追加注文はおまけのようなものがほとんどです。
こんな注文者には「情報が多すぎます」といくら説明しても聞き入れてもらえません。
ジョブスの例え話
広告に携わる人にこの話をすると、よくある話だと言われました。
ものを売りたい人は、売ることに頭がいっぱいになっているので、買う側の心理状態まで及ばないのだそうです。
それは誰にでもあることで、こんな話を知っているかと見せてくれたのが、アップルのカリスマ経営者ジョブスの例え話でした。
Appleのジョブスが広告に「あれもこれも詰め込みたい」と話した時に、世界的に有名クリエイティブディレクターのリークロウがジョブスに向かって5枚のトレーシングペーパーを丸めて一度に投げた。1つしか受け取れなかったジョブスにこう言った「広告とはそういうものだ」。
選択肢過多効果
今、流行りの行動経済学の言葉にある「選択肢過多効果」を端的に表したエピソードです。
簡単に言えば、すぎたれば及ばざるが如し。
人間つまりヒトの脳は選択肢が増えるとものが選べなくなると言います。
欲しいものを前にして”目移りがする”というのもこの心理現象に近いのかもしれません。
困ったことにこの「選択肢過多現象」に陥ると、選ぶことができなくなって最終的に購買力そのものが落ちてしまうのだそうです。
せっかく買って欲しい商品やサービスをてんこ盛りに並べても、買ってくれなければ意味がありません。
ですから、ものを売るプロたちはわざと商品を少なくして客の購買力を高める工夫をするのだそうです。
そう言われてみると、アップルの新製品が数点しか発表されないことの意味が見えてきます。
逆に効果を利用した
「ついでにこれ」を要求する発注者を思いとどまらせるには、言葉でいくら説明しても効果は期待できません。
若干手間はかかりますが、実際にどうなるか示して見せるのが早道です。
情報を平均的に並べたデザイン案に加え、メインテーマ以外の情報は極端に見えにくくしたデザイン案の数点を作ります。
デザイン案そのものを選択肢を絞って作り判断しやすくする作戦です。
選択肢が多ければいいという物ではないということをわかってもらうのが狙いです。
実際に買う側に立って周知物がどのように見えるのか体験させるやり方は意外に効きました。
「自分が売りたいものは何かがよくわかった」
どうやら、発注者自身が何をしたいのかが見えていなかったことがわかってきたのです。
周知物の制作を進める上で発注者と制作者の対話の大切さが欠かせないことも見えてきました。
選択肢を絞ることは物事をシンプルに捉えることです。
ジョブスの名言「シンク・シンプル」は、ものづくりの真理を突いていると改めて思いました。